グルーヴを生み出す「間」の進化。 クニモンド瀧口氏のパンチライン

『シティ・ソウル ディスクガイド』のインタヴューで、クニモンド瀧口氏(流線形)は愛聴してきた、制作における影響源となる洋楽作品について話してくださいました。ぼくも大好きな流線形のモトになった作品についてのお話はとても興味深いものでしたが、いまの音楽の話になった際の、「間」についての考察はなるほどと唸らされるものでした。

機材の進化で、完全に無音の「間」がつくれるようになった。それが2000年代以降ならではのグルーヴを生んでいる。グルーヴを生み出す「間」が進化した、テクノロジーの進化によって。

この瀧口さんのパンチライン、The Internetの名曲”Dontcha”と、そのモチーフとなったであろうデイヴィッド・ボウイの世界的なヒット曲”Let’s Dance”の聴き比べで検証してみましょう。

1983年発表の”Let’s Dance”は、ギターはシックのナイル・ロジャース(ダフト・パンク”Get Lucky”のギターも彼です)、ドラムスもシックにいたトニー・トンプソンで、新しいサウンドの「間」、グルーヴがウケて、大ヒットした曲です。リリース当時は、それまでのポップ・ミュージックに比べスカスカに聴こえたのですが、そのちょうど30年後に出た”Dontcha”と聴き比べるとノペッと、平面的に聴こえないでしょうか。PCで音を編集〜画面で「音を見る」ことができるいまは、かつては必ずあった残響音もゼロにし、完全な無音がつくれるのです。そうして生まれたサウンド、グルーヴは、以前には決してなかった、進化した音楽のカタチです。

グルーヴは時代とともに進化する。なにかすごくロマンティックで、感動的ですよね。

 

音楽における「輪郭線」とは?  冨田ラボ氏のパンチライン

 

『シティ・ソウル ディスクガイド』の巻頭は冨田ラボさんインタヴューで、フワっとした考えのぼくに代わってシティ・ソウルの定義や特徴といったことを深く考察していただいています。そのお話は個人的には、『bmr』誌にお寄せいただいたマイケル・ジャクソンの歌唱についての鷺巣詩郎さんによるご考察以来の衝撃でした。

中でも今回、冨田ラボさんが発した決定的なパンチラインは、「ポップにする」の類義語として出た「輪郭線の強調」という言葉です。

音楽における「輪郭線の強調」を、かつて最もウマく成したひとりがディヴィッド・フォスターであり、EW&Fはディヴィッド・フォスターと組むことで80年代的な輪郭線を手に入れた……。冨田さんのご考察は『シティ・ソウル ディスクガイド』で、前後の文脈込みでぜひお読みいただきたいのですが、ぼくは「輪郭線」という言葉で音楽を解説される方は初めてで、心底驚くとともに、いろいろなことがすごく腑に落ちました。

例えば、偏愛するヤング・ガン・シルヴァー・フォックスの、リリースされたばかりの2ndアルバム『AM Waves』は、1st『West End Coast』よりも輪郭線が強調された、より80s感の強い曲が多いように感じます。両者のリード曲となった”Midnight In Richmond”と、”You Can Feel It”を聴き比べてみましょう。

あくまで感覚的なことしかぼくは言えませんが、”Midnight In Richmond”の方がメロディラインも楽器の音もクッキリハッキリ=輪郭線が強いように感じます。それにより最初聴いたときは「アレッ、1stとずいぶん代わったなぁ」と思ったんですけど、いまの音楽環境だとこっちもいいなぁと、すぐにハマりました。

これからは「輪郭線」に注意してレコードを聴くと、いろいろと新しい発見がありそうです。冨田さん、音楽ライフを豊かにしてくれるお話を、本当にありがとうございました。

 

 

続々・なんで シティ・ソウル?

「2018年のいま、世界中で愛されるソウル、AOR & ブルー・アイド・ソウル」を紹介する、ジャンル横断のディスクガイド本。これに「シティ・ソウル」の名をつけた大きな理由は、国内のシティ・ポップと対になるような音楽を集めた本だから。インターネットを介してなんでも試聴できるいま、音楽ファンの耳は飛躍的に肥え、より豊かで高度な音楽性を持つ作品を求めるようになりました。するとたどりつくのは、ソウルもロックもジャズも何もがミックスされたクロスオーヴァーな音楽。国内ではシティ・ポップと括られる作品です。シティ・ポップは「クロスオーヴァーな音楽性の作品」を表す言葉として馴染み深いものになりました。ならばシティ・ソウルは、ソウル・テイストの強いクロスオーヴァーな音楽と、イメージされやすいだろうと考えたのです。

また、シティ・ポップの「シティ」は、場所でもありますがそれ以上に、情報量の多さや、先取性の強さ、変化を恐れずむしろ好む姿勢、といった意味も表せているように思います。今回のディスクガイドで紹介しているのは、つくり手自身もヘヴィ・リスナーで、レコードを聴いて受けた影響が積極的に活かされているような、流行=トレンドに敏感な作品。その点でも「シティ」という言葉が合っているなぁ、「シティ・ソウル」でなんとなくでも伝わるはず、と考えています。

企画段階では、カルい思いつきの本と思われたらイヤだなぁという考えもありました。しかしつくり始めると、この本はぼくにとってブラック・ディアスポラについての考察のひとつに違いなかったのです。結局、ぼくの興味はそこにあるのだなぁと再確認しつつ、これまでの自分の仕事とつじつまが合ったことに、ホッとしました。ですので『bmr』誌のファンだった皆さんにも安心してお読みいただけるはずです。

Spotifyで、どなたでも無料で聴ける、本に連動したプレイリストを公開しています。百読は一聴にしかず、まずは本で紹介している600曲分の16曲で、「シティ・ソウル」に触れてみてください。

 

 

続・なんで シティ・ソウル?

(続き)大貫妙子さんの「都会」が41年の時を経て国民的人気曲(とは大げさですが)となっているいま、そのインスパイア元となったマーヴィン・ゲイの『What’s Going On』も改めて人気です。であれば、基本がレコード店員マインドのぼくは、「ダニー・ハザウェイのカヴァーも最高ですよ」と薦めたくなります。

Donny Hathaway “What’s Going On”

次には、「ダニーもいくつかの曲をカヴァーしているキャロル・キング、彼女の”What’s Going On”オマージュ曲もいいんですよね」。

Carole King “Brother, Brother”

さらには、「”What’s Going On”はカヴァー、オマージュの最も多い曲のひとつなので、こんなのも」と次々に……。

Robert Palmer “Every Kinda People”

Jermaine Jackson “You Like Me Don’t You”

https://itunes.apple.com/us/album/you-like-me-dont-you/598662871?i=598662887

Maze “Silky Soul”

Prince Phillip Mitchell “Come To Bed”

https://itunes.apple.com/us/album/come-to-bed/205810515?i=205810724

Sydney Youngblood ‎ “Wherever You Go”

Michael MacDonald “What’s Going On”

https://itunes.apple.com/us/album/whats-going-on/27242672?i=27242732

Corinne Bailey Rae “Call Me When You Get This”

まあ、いくらでも出てきますが、こういった曲を1冊の本の中ですべて紹介したい、そう思ったのです、今回。

ヒップホップ以降、「音色」と、「間」イコール「グルーヴ」で選別していく、いわばDJ的な音楽の聴き方がごく一般的なものになりました。いまは世界中でほんとに多くの音楽好きが、ここで例示したような音楽の聴き方をしています。ぼくは、そんな時代に合う「ソウル・ミュージック」の聴き方、楽しみ方を皆で共有したくて、ジャンル横断のディスクガイド本をつくろうと…… 待て、本のタイトルをどうしよう? それが問題でした。(さらに続きます)

 

 

 

なんで シティ・ソウル?

『シティ・ソウル ディスクガイド シティ・ポップと楽しむ、ソウル、AOR & ブルー・アイド・ソウル』という本が、5月18日に発売されます。ぼくがこの本をつくるにあたり、最も大変だったのは「なんで シティ・ソウル???」という、ご協力いただいた全員がもれなく最初に抱く疑問に答えることでした。

シティ・ソウルという言葉は、一般的には使われていません。うさんくさくもあるこの言葉をあえて推しだしたのは、ぼくがこの本で紹介したかった「2018年のいま、世界中で愛されるソウル、AOR & ブルー・アイド・ソウル」をひと言で表すのに、シティ・ソウル以上に適した言葉はないと思えたからです。

例えば。

先に『YOUは何しに日本へ?』というTV番組で取り上げられたこともあり、大貫妙子さんの『SUNSHOWER』は発売から41年経ったいま、最も人気を博しています。その事実はすごくオモシロイことですが、必然とも言えます。というのは、超がつく名盤の中でも「都会」に人気が集中していて、坂本龍一がアレンジしたこの曲は、マーヴィン・ゲイ『What’s Going On』をオマージュしたものだから。

この国では、『What’s Going On』は発売から47年経ったいま、最も人気を博しています。そして、それは世界中どこも同じことでしょう。

世界はいま、ジャズの時代、ロックの時代を経て、「ヒップホップと、ソウルの時代」を迎えています。『bmr』というブラック・ミュージックの専門誌を長年つくってきたぼくは断言できます、いまほどソウル・ミュージックが広く聴かれている時代はありません。

「都会」は、『What’s Going On』好きが増えてこそその真の魅力が広く伝わる、「ソウル・ミュージック」でした。『SUNSHOWER』が10年前には考えられないほど多くの人に愛されているいまこそ、大好きなソウルの名曲・名盤の数々を紹介するチャンスだと、ぼくは思ったのです。(続く)